ウソツキ忍者の独断と偏見に基づく感想・考察

読んだ本や、見たアニメについての感想

ウソは悪なのか?―――『ウソツキクラブ短信』を読んで

こんにちは、日本ウソツキクラブ会員の鷽尾幽太郎(ウソオユウタロウ)です。
前回は簡単な自己紹介だったので、事実上、今回からがブログの第1回ということになると思います。
そこで、最初に紹介したい本は、やっぱりこれです『ウソツキクラブ短信』。

1. ウソ礼賛

「ヘラルド・トリビューン」紙(1988年5月18日付)には、ダニエル・ゴーンという記者の署名入りの記事で、「子どもの最初のうまくいったウソは、精神的成長へのマイルストーン」であるなど、精神医学雑誌の論文を参照しつつ、ながながとウソ礼賛が書かれていた。
「嘘をつくことは、人間を他の種から区別する能力である」などという言葉もあって、(略)
『ウソツキクラブ短信』河合隼雄大牟田雄三(講談社+α文庫)P.10

「嘘」という言葉は大抵、ネガティブな印象を持たれています。
しかし、そんな悪いイメージを我々(日本ウソツキクラブ)はひっくり返したいと考えています。
自分の利益をはかるウソではなく、我ら日本ウソツキクラブはユーモアのあるウソを大切にしているのです。

2.日本ウソツキクラブのつくウソ

我々の活動は以下のようなものです。

(略)ウソツキクラブの条件として、
1.ウソのようなホント
2.ホントのようなウソ
3.ユーモアのセンスあるもの 歓迎
と書かれている。ウソツキクラブだからといって、いつもウソをついていては、なんのおもしろみもない。この3条件のだいたいの基準として、ウソを言ったとき、7割以上の人が信じる。ホントのことをいったとき7割以上がウソと思う、そして、7割以上の人が笑いだすこと、となっている。
ウソとマコトが交錯するなかに笑いが生まれてくるところが大切である。
『ウソツキクラブ短信』河合隼雄大牟田雄三(講談社+α文庫)P.60~P.61


私はまだまだ未熟者なので、なかなか”立派な”ウソを思いつきませんが頑張って早いところ一流のウソツキになりたいものです。
特に難しいのが「7割以上の人が笑いだすこと」ですね。人を笑わせるのは大切なことであり、また、大変な努力を必要とすることでもあります。
「笑い」には意味を無化する作用があり、この高度情報化社会の中で”意味”に囚われて硬直してしまった私達の心を解きほぐし、浄化する効果があるのです。

3.日本ウソツキクラブについてのあれこれ

1.本部はどこにあるのか?

日本ウソツキクラブは本部がよく移転する。(略)ともかくよく移転通知がまいこんできて、そのたびに、その真偽のほどについて判断せねばならぬのでなかなか大変である。
(同上)P.57

○○に移転しました、と通知が来ても何せ日本ウソツキクラブのこと、はたして本当かどうか分かりません。

2.受付には本が並ぶ

受付の横には、特に会員にお分けしますとかで、いくつもの本が並んでいます。
例えば、『ウソの効用』末弘巌太郎、『うその社会心理』井上俊、『うそ800への旅』カニグズバーグ、『嘘ばっか』佐野洋子、などです。
その中でも特に『葉隠』は注目すべきでしょう。

岩二は『葉隠』を見つけて、「このむずかしい本は何?」というのに、工藤さんが「これは、ホントウのサムライはウソがつけないとダメで、ちょっとそこらを歩いている間に7つくらいのウソをつかないとダメ、などと書いてある本よ」と優しく説明してやっている。
(略)工藤さんが岩二に説明していたのは、「書簡第八、一四」で、「山本前神右衛門は、家来ともに逢うて、『博奕を打ち虚言をいへ。一町の内七度虚言言わねば男は立たぬぞ』とのみ申され候」というところである。
(略)この他、サムライに虚言の必要なことが詳しく説かれていて、『葉隠』はウソツキクラブ会員の必読書になっている。葉隠はもともと「言葉隠」(つまり嘘言の意味)だったのが略されたものである。
(略)ここだけホントにマジメに申し上げるが、今回の『葉隠』のことなどはホントの事実なのである。
(同上)P.58~P.61


葉隠れとは「言葉で心を隠している(つまりウソ)」というわけです。しかしこれは心が弱いから怖くて隠れているのではなく、ましてや他人を騙して自分の利益をはかろうなどと下心を抱いているのでもありません。大切だから隠しているのです。人間や社会とは実に繊細で機微なものですから、何でもかんでも明らかにすれば良いというものではありません。あえて隠すことで折り合いがつき、丸く収まることもあるのです。
ところで、『葉隠』の元になっている「言葉隠」ですが、私にとっても縁の深い言葉なのです。
日本ウソツキクラブの会員としてユーモア溢れるウソをつくことをライフワークとする一方、私は、それとは別の営みを持っており、実を申し上げると、このわたくし何を隠そう(いや、隠しますまい)言葉隠れの里の下忍なのであります。言葉隠れの里とは言遁忍術を得意とする忍び集団であり、里長の嘘影様を先頭に日々、任務に明け暮れております。我が里は、日本ウソツキクラブとの間に強い結びつきをもっており、この私も双方のパイプ役として末席に名を連ねているのです。ホントに本当ですよ。

3.応接室

人品卑しからぬ人たちが談笑しており、日本ウソツキクラブの会長(河合隼雄さん)が国際ウソツキクラブの会長のライアーさんからもらってきたという、有名な”Belive it or not,The truth lies here”(「信じようとしんじまいと、真実はここに存在する」とも「真実はここでうそをつく」とも読める)というプレートが飾ってあります。

4.幹部など主要メンバー

深層心理学者の河合隼雄氏(会長)、大牟田雄三氏(機関紙「ウソツキクラブ短信」編集長)、児童文学者の庄野英二氏(顧問)、詩人の工藤直子氏(婦人部長)、など錚々たる顔ぶれとなっております。

5.業界用語

ウソを思い浮かばなくなる状態のことを「健康状態がすぐれぬ」と言います。

6.会長の口癖

「ウソなど大したことない。恐ろしいのはホントのことです。ほんとうに」
(同上)P.216

これは名言ですね。

4.この本(『ウソツキクラブ短信』)について

私の拙い文章では、この本の面白さを僅かばかりも伝えることができずに悔しい限りです。文章力を鍛えるためにもブログは続けていこうと思います。『ウソツキクラブ短信』をまだ読んでない方には是非とも読んでもらいたいです。
では、最後に解説者の柳田邦男氏からの引用で締めくくらせていただきます。

ただ1つ注意しておかなくてはならないのは、この本を読んでどこまで笑えるか、その”笑い度”如何が、読者の知的レベルを測る物差しになるかもしれないということだ。
(同上)P.258

ちなみに、書いてあることの、何がホントで何がウソなのかは皆様の判断にお任せいたします。