比較優位説は成り立たない―――『反・自由貿易論』
自由貿易への批判。
著者は中野剛志。
新潮新書。
2013年。
軽くメモする程度に書く。
比較優位論には基本となる定理がある。
それはヘクシャー=オリーンの定理というもので、「生産要素(資本と労働)の比率を考えたとき、各国が潜在的に抱えているこの比率と、各産業が必要とする生産要素の比率を比較し、各刻が適合性の高い産業に特化することによって比較優位が生じる」という。
但し、この定理はいくつかの前提条件がないと成り立たない。
①世界には、2国、2財、2種類の生産要素(資本と労働)が存在する。
②生産は、規模に関して「収穫不変(生産要素の投入量をn倍にしたとき、生産量もn倍になること)」が成立している。
③生産要素は完全雇用されている。
④生産要素は国内の産業間を自由に移動でき、そのための調整費用もかからないが、国と国との間の国際的な移動はしない。
⑤国内市場では生産物市場、生産要素市場ともに完全競争が行われている。また、国際貿易の運送費用は存在しない。
⑥両国で資源の相対的な賦存度は異なっている。
⑦両国における各個人の効用関数は、同じである。
(P.25~P.26)
①はモデル化のための簡略だとしても、⑤の「運送費用がかからない」は無理がある。
また、③の完全雇用もリーマンショックやコロナ禍などにより不況になると達成は非常に困難である。
④の「国内でのノーコストでの自由な移動」や「国際的移動がない」なども成立させることは出来ない。
特に後者はグローバル化の時代には不可能である。
奇妙なことに、経済学の自由貿易理論の基本とされるヘクシャー=オリーンの定理は、資本のグローバル化を想定していないのです。
(P.27)
これらのことから自由貿易を推進するべき根拠として比較優位を持ち出すことは出来ないと考えられる。