ウソツキ忍者の独断と偏見に基づく感想・考察

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社会調査に騙されている?―――『「社会調査」のウソ』を読んで

社会調査がどれほど間違っているかを暴いて見せている本。
著者は谷岡一郎社会学博士)。
文春新書。
平成12年、第1刷。



この本の論点

①社会調査の過半数はゴミ
②そのゴミが引用されて新たなゴミを生む
③ゴミが作られる理由はいろいろ
④ゴミを作らないための方法論
⑤ゴミを見分ける方法


用語

バイアス

これらの社会調査の結果には、不可避的に現実の社会からのズレが存在する。このズレのことを専門用語で「バイアス(bias=偏向)」という。



指数と指標

「指標(index)」とは、抽象的で数量化しにくい概念を、客観的手法で近似的に数量化した数値のことである。

「指標(indicator)」とはまだ数量化できていない段階における、指数の構成概念である。

指標と指数の妥当性は「測りたいことを測れているか」という問題に帰する。



実行定義

調査する際、指標(大項目)さえ決まれば下部構成概念が自動的に決まるというほど簡単にはいかない。
例えば、「消費者物価」を大項目と決めたとして、枝分かれする下部項目に、いかなる店の値段か、どの時点で計測するのかなど、指標を指数に直すときに細々とした定義が必要となる。

この定義を「実行定義(operational definition)」と呼ぶ。
条件として重要なのは客観的(誰がやっても同じ結果になる)かどうかだ。



いろんなゴミ

歴代大統領の人気

米紙の調査でカーター、レーガンニクソン、フォードの人気が1991年に発表されたことがある。

順位はカーター35%、レーガン22%、ニクソン20%、フォード10%であったようだ。

さて、どこがおかしいのか?
答えは、4人の元大統領のうち、カーターだけが民主党で残り3人は共和党という点である。
これは、調査に答えた人のうち民主党支持者はほとんどカーターを選ぶが、共和党支持者は3人に分散されてしまうという仕掛けがあるのだ。

このように、特定の選択肢が上位にくるような恣意的な質問の作り方を専門用語で強制的選択(forced choice)と呼ぶそうである。



単なる思慮不足

<総合職女性6割「昇進など不利」/8割が「能力発揮」/「仕事続けたい7割」(「日本経済新聞」1994年3月30日)>

この調査は何の役にも立たないデータののっだが、他の団体にも影響を与えており、ゴミがゴミを生んでいる。

<「能力評価に不満」49%/管理職の女性公務員」(「日本経済新聞」1995年5月8日)>

<人事評価で男性と格差/「女性の社会進出」調査(「産経新聞」1997年9月18日)>

これらには致命的な欠点があるという。
それは、比較の対象が存在しないことだ。
例えば、総合職の女性の6割が「昇進など不利」と考えているとあるが、もし男性の7割が「昇進など不利」と思っていれば、総合職の女性の不満は男性に比べて少ないということになる。
さらに、国家公務員の男性で「能力評価に不満」を持つものが女性の49%より多ければ、女性の不満は相対的に少ないということになる。



弁明的なごまかし

<ごみ、ドーム130杯分/最高、5000万トンに迫る(「読売新聞」1989年4月21日)>

これは故意に人を驚かすような表現を使いながら、何の情報も与えていない。かえって話を分かりにくくしている。
そして、記事の脇には<粗大ごみ有料化/減量めざし東京都方針>という見出しがある。

この政策の必要性は認められるものの、「ゴミが増加しているので有料化します」という政策に対する反対を、事前に抑えるためであることが透けて見える。



わかった上でわざと悪用

<働く女性の6割、職場で性的被害/セクハラ1万人アンケート/市民団体ら福岡で会合/法的措置求める>(「朝日新聞」1990年8月19日)

「愛人になれ」「ホテルへ行こう」など言葉での被害は48.8%、「いやらしい目つきで体を見られた」「スカートをめくられた」などの痴漢行為が97.5%、「下着に手を入れられた」など、よりひどい例が11.6%だった。

ここで問題になるのは「いやらしい目つきで体を見られた」と「スカートをめくられた」を一緒にして、そのどちらかの被害を経験した人は97.5%に達すると報告している点だ。

「いやらしい目つきで体を見られた」と判断したのは、アンケートに答えた女性の主観であろう。「いやらしい目つきで体を見られた」という項目にはノー、「スカートをめくられた」という項目にはイエスと答えた人は数%程度のはずであるから、97.5%の大半は「いやらしい目つきで体を見られた」と答えた人たちでしめられているはずである。
ということは、有効回答のうち59.7%が何らかの性的被害を受けたとして、そのうちのかなりの人が「いやらしい目つきで体を見られた」のみイエスと答えたということである。「6割」という数字は、つまりは、このヘンな質問項目のおかげで出来上がったわけである。
これが3割であろうと1割であろうと、たとえ1人であっても、由々しきことに変わりはない。日本の職場で非人道的行為が日常的に行われているのも事実であろう。しかし、これほどずさんな調査で日本の男性を非難するやり方には賛成できない。
(P.41~P.42)

性的被害者の割合を水増しするために「いやらしい目つきで体を見られた」という主観的で判別がつきにくいものを組み込んだということのようだ。
著者は「これが3割であろうと1割であろうと、たとえ1人であっても、由々しきことに変わりはない」としっかり述べており、私もこれに同意する。
しかし、このようなやり方をしていては、他の女性運動団体のきちんとした調査まで胡散臭い目でみられるようになってしまう恐れもある。



模擬投票

1992年5月に行われた「国連平和維持活動(PKO)協力法案」に賛否を問うた投票がある。

各地で市民投票実行委員を作り、約170か所で13万7千票を集めた。
結果はPKO法に反対が88%賛成が11%だったそうだ。

そして同時期に2大新聞社が同趣旨の質問をした結果がある。

PKO自衛隊派遣68%が容認>(「読売新聞」1992年5月3日)
カンボジアPKO自衛隊派遣/賛成52%反対36%>(「朝日新聞」1992年9月28日)

模擬投票の「賛成11%」との差はとてつもなく大きい。

このような模擬投票は、たいてい投票者がメチャクチャだという。
わざわざ政治臭がプンプンする投票にやって来る者は、概して特定の思想を持っている場合が多いのだ。



他調査の引用

死刑廃止「賛成」65%/アムネスティアンケート/近畿の衆院選候補>

人権擁護団体、アムネスティ・インターナショナル日本支部は11日、近畿2府4県の衆院選立候補者を対象にしたアンケートで、65%が死刑廃止に賛成していると発表した。/先月ファックスと電話で115人(59%)から回答を得た。/「死刑制度を廃止するべきだと思うか」との質問では、「思う」が75人、「思わない」15人、「どちらとも言えない」25人。政党別に見ると、廃止賛成派は、社民(回答者1人)と共産(同45人)、新社会(5人)、民改連(2人)が全員。新進(24人)は13人、民主(11人)5人、自由連合(7人)と、無所属(5人)は各2人おり、自民(13人)とさきがけ(2人)はゼロだった。
(「読売新聞」1996年10月12日)
(P.63)


この調査記事の悪い点は

死刑廃止賛成者の75名には共産党全員の45名が含まれている。共産党は選挙資金がもっとも潤沢で、すべての選挙区に候補を立てることで知られているが、当選者は少ない。つまり、候補者の65%と民意の65%とはまったく異なっている。

回答しなかった41%には死刑廃止に反対の人が多いと思われる。なぜならアムネスティ・インターナショナルは、死刑に反対する団体として、よく知られているからである。

記事で見る限り自民党候補者の回答者はたったの13人であるが、自民党の候補者がこんなに少ないはずがない。アムネスティを相手に記名で死刑制度に賛成する勇気がなかったものと思われるが、一概にはこれを非難できない。というのも、アムネスティ・インターナショナルは自分たちの政治的主張に合わないものを、容赦なく批判することで知られている団体だからである。
(P.64)

初めに記事ありき

アンケートに回答してもらうタイプの記事では、誘導的な聞き取りがなされたり、応えてくれる人を選んで聞いたりするやり方が多く方法論としてあまり優れているとはいいがたい。

阪神大震災から1年半後に行った調査だと

<仮設住民「取り残される」75%/きょう震災1年半/300人追跡調査/「生活に不安」8割>(「朝日新聞」1996年7月17日)

調査の数字がどう出ようと、前回の調査より悪化したといえる項目を選んで記事や見出しにしただけのことではあるが、それでもとにかく調査はしたわけである。
(略)お断りしておくが、この調査は仮設住民を対象としたものとしてはマシな方である。
(略)しかし、次に挙げるような難点がある。
前回、調査した1000人のうち、今も仮設住宅に残る300人を追跡したというが、実際には、1000人のうち追跡できたのが300人だったということではないか。残りの700人のうちの多くは「仮設住宅を出ていった人たち」のはずで、残された300人が「取り残される」と感じたり、行政の施策が「十分と思わない」のは、むしろ当然である。パネルスタディというのは全員を追跡してこそ意味があるわけで、本来は仮説住宅を出て自立した人たちにも、例えば行政の施策が「十分と思うか否か」尋ねなければ、あまりに一方的といわれてもしかたがない。
(P.69~P.70)

アンケートの対象者として「不満を持っているであろう」人々を選んで調査が行われているということのようだ。



選択肢による誘導

<「君が代」法制化「必要」47%「不要」45%/「議論尽くせ」66%/(小さな文字で)法案への賛成58%>(「朝日新聞」1999年6月30日)

質問は日の丸と君が代について11問あるが、最後にこういったものが来る。

あなたはこの法案を、8月半ばまでの、今の国会で成立させるのがよいと思いますか。それとも、今の国会での成立にこだわらず、議論を尽くすべきだと思いますか。

今の国会で成立させるのがよい 23%
議論を尽くすべきだ      66%
その他・答えない       11%

実はこの法案に賛成か反対かという質問では、賛成が58%に達している。
最期の質問は回答者の決断を誘導的に先延ばしさせるものと言わざるをえない。

この「議論を尽くすべきだ」によって「それほど言うなら先送りも仕方ないだろう」を誘導するやり方は、「サッカーくじ」や「組織犯罪に対する法案」などにも行われていたようだ。自分たちの気に入らない法案に対して、いつも決まって「十分な審議がなされていない」状態というわけだ。



因果関係・相関関係①

<ダイエット食品は減量に役立つか>(「朝日新聞」1998年9月7日)

マリエ・アンゾ博士の測定結果によると

(a)ダイエット食品を食べる回数が多ければ多いほど、肥満度が高い。
(b)ダイエット食品を食べる量が多ければ多いほど、肥満度が高い。

結論としてダイエット食品を食べることは、むしろ逆効果であると発表された。
しかし、これも間違っている点がある。

単に太りすぎの人がダイエット食品をよく食べているだけだった
つまり「ダイエット食品を食べる量と回数」と「肥満度」に相関関係があるだけというデータを因果関係(ダイエット食品→肥満)にすり替えていたというわけだ。実際の因果関係は(肥満→ダイエット食品)と逆なのである。

因果関係・相関関係②

マーチン・ガードナーは『The Paradox Box』(日本経済新聞社、1979年)の中で紹介している例だ。

「統計によればアリゾナ州は他の州よりも肺結核で死ぬ人が多いそうです。これはアリゾナの気候が結核にかかりやすいと言うことになるのでしょうか?」
「まったく逆です。アリゾナの気候は肺結核にかかった患者が療養するのにおあつらえ向きなので、こぞってアリゾナに行くのです。当然ながら肺結核で死ぬ人の平均値が大きくなるというわけです」
『The Paradox Box』マーチン・ガードナー(日本経済新聞社、1979年)103ページ
(P.129)

これも「アリゾナ州の気候」と「肺結核での死亡者数」の相関関係から間違った因果関係を導かれやすいという点を指摘している。

間違いの方が(アリゾナ州→肺結核)となっており、実際には(肺結核アリゾナ州)という逆の因果関係だったわけだ。


感想

調査・質問している側に初めから結論があり、それを補強するためのアンケート内容に誘導が行われていたり、質問対象者として期待される回答をするであろう特定の人達が選ばれていたり、比較対象が存在していなかったり、など「社会調査」には悪い意味で巧妙かつ洗練された工夫が施されていると感じた。
常に意識して見ていれば騙されることは少なくなるかもしれないが、そう簡単に出来ることではないとも思った(少なくとも私には)。