物理学の発展―――『人物で語る物理入門(上)』を読んで
物理学に寄与してきた人物を取り上げながら科学の発展を見ていく本。
著者は米沢富美子(理学博士)。
岩波新書。
2005年第1刷。
近代科学へ向けて
タレス(前580頃盛年)
自然学派の祖。
自然現象を説明する原理を探究する学派。
ピタゴラス(前570頃~前498頃)
「数」を存在説明の根拠とする。
デモクリトス(前460頃~前370頃)
師のレウキッポスの説を受けて「原子論」を大成した。
アトム(原子)はアトモン(分割不可)が語源。
アリストテレスの自然観
自然は到達すべき姿があり、そこへ向かって成長していく(目的論)。
天上と地上では、物質に対して異なる原理が働いている。
また、空気中の物体は地に向かって落下し、水中の物体は月へ向けて浮上すると考えた。
宇宙については、天球に恒星が貼り付いており、地球は天球の中心にあると考えていた。
アルキメデス(前278頃~前212)
アルキメデスは水の入った容器に物体を入れて押し出された水の量か体積を知ることが出来る事を発見した。
また、その固体が押しのけた液体の重さに等しいだけの浮力を受けることも発見した。
梃子の原理の発見者でもあり、3本マストの軍艦を1人で岸にあげたこともあるらしい。
ガリレオ・ガリレイ(1564~1642)
軽い物体と重い物体の落下に関するアリストテレスの主張を覆して「物体落下の法則」を突き止める。
その関連として「振り子の等時性」も発見した。
望遠鏡を使って月の表面はなめらかではないことを示したが周囲からは反発にあう。
コペルニクスの『天体の回転について』を読み影響を受ける。
ティコ・ブラーエ(1546~1601)
望遠鏡発明以前における最大の天体観測者。
装置の大型化により観測の精度を上げ、長期にわたり継続的な記録を行った。
精度の高い膨大な観測記録を残し、ケプラーへと引き継ぐ。
天上と地上の法則
アイザック・ニュートン(1642~1727)
物理学における業績
(1)微分積分法の発見
(2)力学の発展への貢献と万有引力の法則の発見
(3)光学に関する数々の発見
運動の法則
①「運動の第1法則=慣性の法則」静止または一様な直線運動をする物体は、力が作用しない限り、その状態を持続する。
②「運動の第2法則=ニュートンの運動方程式」運動の変化、物体に働く力の大きさに比例し力が働いている向きに起こる。(「力」=「質量」×「加速度」)
③「運動の第3法則=作用反作用の法則」2つの物体が互いに力を及ぼし合うときには、これらの力は大きさが等しく向きが反対である。
万有引力
「万有引力は距離の2乗に逆比例する」を発見した。
天上も地上も同じ原理に支配されていることが明らかになった。
これは、コペルニクスの地動説、ガリレイの慣性の法則、ブラーエの天体観測、ケプラーの3法則などが万全の形で整っていた準備態勢があったことにより結実した成果でもある。
光は粒子か波か
クリスティアン・ホイヘンス(1629~1695)
「振り子の等時性」は近似的なものではなく、厳密に等時性が成り立つことを見つける。
「サイクロイド」とよばれる曲線がそれだ。平面内における一直線上を円がすべらないで転がった時、円周上のある一点が描く曲線がそれだ。
また、遠心力という言葉を最初に使ったのもホイヘンスだそうだ。
物理の研究としては、音響学、真空の本性、静電気の実験なども含まれている。
ロバート・フックが提唱して「光は媒質を伝わる振動だ」という考えを大きく発展させた。
2次波、3次波と次々に広がっていく原理を使って、波の直進、反射、屈折を説明した。
トーマス・ヤング(1773~1829)
ヤングの「干渉実験」によって光は波動であることが確認された。
波は山と山、谷と谷が重なると、より高くなったり低くなったりする。その結果あらわれる縞模様から光も波動の性質をもつことが分かった。
電気と磁気
ウィリアム・ギルバート(1544~1603)
『磁石について』で地球が大きな球形の磁石であるという考えを記した。
「磁石の引力」と「摩擦した琥珀のもつ引力」が異なるものであることをはっきり示した。
ミュッセンブルーク(1692~1761)
摩擦で発生した電気を蓄える蓄電器として、瓶型のコンデンサーの一種を作成。
電気にも「正の電気」「負の電気」の2種類があることが分かった。
ベンジャミン・フランクリン(1706~1790)
凧を使った実験で、雷の稲妻が電気放電であることを立証した。
シャルル・ド・クーロン(1736~1806)
電荷や磁極の間に働く力が「距離の逆2乗則」に従うことを発見する。
電荷間の力や磁極間の力は、電荷の符号や磁極の種類によって、引力になったり斥力になったりする。
ハンス・クリスチャン・エルステッド(1777~1851)
電気と磁気も「力」という概念で統一的に捉えられると考え、実験によって電流の周りには電流と「垂直な」方向に、磁力が働くことを発見した。
電気現象と磁気現象の両者が密接に関連することを示した。
アンドレ・マリー・アンペール(1775~1836)
エルステッドの論文を知ったアンペールは、大急ぎで実験装置をあつらえて、ある実験を行った。
その実験で、電流が流れる導線2本を互いに平行に置くと、導線間に磁力が働くことを確かめた。
「電流は、回転的な地場を作る」ことを示し、それはアンペールの法則と呼ばれるようになる。
マイケル・ファラデー(1791~1867)
他の人達の実験を参考に、世界で初めての「電動モーター」を作った。電気を運動に変えることに成功したのだ。
先にエルステッドによって「電荷が動いて」電流になった時に磁場が発生することが示されていたが、今度はファラデーによって「磁石が動いて」磁場が変動した時に電場が生まれることが示された。
本質的には、磁場と導体が「相対的に動いて」結果として、「回路を通過する磁場の強さが変動する」という状況が実現されればよいということだ。
磁場の変動が電場を生み出すこの現象を「電磁誘導」という。
ファラデーによって示された「磁場の時間的な変動は、回路に電場を作る」という電磁誘導現象を、マクスウェルは数式であらわした。これを「ファラデーの法則」という。
また、「遠隔力(途中の空間を飛び越えて物質に直接働く力)」に対して、力は「近接力」によって伝わると提案した。
電荷や磁石の近くの空間には電場や磁場が働いて、その力の線(力線)に沿って順に隣へと伝わっていき最終的に遠くまで伝わるといことだ。
カール・フリードリッヒ・ガウス(1777~1855)
「磁場に対するガウスの法則」は、閉じた曲面を出入りする磁力線の数の差し引きはゼロになる、と表される。
「電場に対するガウスの法則」は、閉じた曲面を出入りする電気力線の数の差し引きは、曲面の中にある電荷の総量になる、と表される。
ジェームズ・C・マクスウェル(1831~1879)
電気力線と磁力線で満たされた空間を電磁場と呼び、次の4つが基礎となると考えた。
①「マクスウェル-アンペールの法則」電場の変動と電流との和は、回転的な磁場を作る。
②「ファラデーの法則」磁場の変動は、回路に電場を作る。
③「磁場に対するガウスの法則」閉じた曲面を出入りする磁力線の数の差し引きはゼロになる。
④「電場に対するガウスの法則」閉じた曲面を出入りする電気力線の数の差し引きは曲面の中にある電荷の少量になる。
マクスウェル方程式の優れた点は、電磁気現象をすべて説明できただけではなく、この方程式から「電磁波」の存在を予言し、「光の本質は電磁波である」と結論できたことも重要である。
ハインリッヒ・ルドルフ・ヘルツ(1857~1894)
ヘルツは、1888年に電磁波の存在を初めて実験的に確かめ、光が電磁波の一種であるというマクスウェルの予言を実証した。
エネルギーとエントロピー
自然現象相互の関係
(1)化学反応と電気
<電流が化学変化を起こす>ことをファラデーが実験的に見つける。
また、ボルタの電池では<化学変化の結果、電流が流れている>ことを示す。
(2)電気と磁気
エルステッドは、<電流が磁場を作る>ことを発見した。
ファラデーは<磁場の変動が電流を起こす>ことを見つけた。
(3)電気と運動
ファラデーは、電動モーターによって<電気を運動に変える>ことに成功した。
また、電磁誘導を使って<運動から電気を得る>発電機も発明された。
こうして、熱、運動、電気、磁気、化学反応などは、互いに交換できることが明らかになった。
ジェームズ・ジュール(1818~1889)
条件を変えて実験を重ねた末「くわえられた仕事の量」と「得られた熱の量」との比が常に一定になることを見つけた。
4.2ジュールの仕事から1カロリーの熱量が得られ、この比は「熱の仕事量」と名付けられた。
自然現象を生み出す本質
「化学反応と電気」「電気と磁気」「電気と運動」それぞれの関係に加えて、ジュールによって「熱と仕事」の関係も解明されたことになる。
このように、ある自然現象が別の自然現象を生み出すときにも、本質的には不変な「何か」があるはずだと考えられていた。その「何か」として選ばれたのはエネルギーである。
サディ・カルノー(1796~1832)
蒸気機関の本質は「恒温槽から熱量をとって、その一部分を仕事に変え、残りの熱量を低温槽に捨てる」というサイクルの繰り返しであると見抜いた。
その理論的解析により「熱から仕事への変換効率には上限がある」ことを示した。
ルドルフ・クラウジウス(1822~1888)
エネルギー保存則とカルノーの原理とを並び立たせるために、エネルギー保存則を「熱力学の第一法則」と呼ぶことにし、<熱をすべて仕事に変換することは出来ない>というカルノーの原理を「熱力学の第二法則」とした。
クラウジウスは、可逆過程の場合に限れば、「低温槽に捨てる熱量」と「低温槽の温度」の比と、「高温槽から取り出す熱量」と「高温槽の温度」の比とが互いに等しいことを見出し、この比を「エントロピー」と名付けた。
ルートヴィッヒ・ボルツマン(1844~1906)
気体中の分子がすべて単一の速さで動いているのではなく、その速度分布が「正規分布」になることをマクスウェルが示したが、ボルツマンは分子をニュートン力学で扱ってマクスウェルの速度分布が導かれることを証明した。
また、運動エネルギーしか含まれていなかったマクスウェルの考察に対し、この分布則をあらゆる種類のエネルギーに拡張した。これを「マクスウェル-ボルツマン分布」という。
ボルツマンは熱力学第二法則をミクロな立場から証明した2大業績がある。
(1)エントロピー増大をミクロな根拠から示した「H定理」
(2)エントロピーの統計力学的解釈を与えた「ボルツマンの原理」
ロシュミットから「時間逆転が可能な分子の衝突を踏まえて導出されたH関数が、不可逆な振る舞いをするというのは矛盾ではないか」という異議が唱えられたが、それに対する返事は「反対の過程が起こることはあるけれど、その確率は著しく小さいので、エントロピーは”ほとんどいつも”ぞうだいする」というものだった。
集団としてどのように振る舞うのかを記述したのが「分布」である。
「統計的扱い」をするというのは、自然現象の物理的解明の方法として1つのパラダイム転換だった。
ボルツマンが主張したのは「確率的に論ずる」べきだということだ。
エントロピーは、「マクロな1つの状態に対応するミクロな配置の数」の「自然対数」に比例することをボルツマンの関係式は表している。
エントロピーを「S」で示し、ミクロな配置の数を「W」で示すと、「S=klogW」となる。
特殊相対性理論
アルバート・アインシュタイン(1879~1955)
アインシュタイン以前では空間と時間は、独立した絶対的なものだと考えられていた。
しかし、光速あるいはそれに近い速度で動いているものに対しては「絶対時間の仮定」が通用しないことが特殊相対性理論で示された。
また、「絶対空間」についても、ガリレオが指摘した「どの慣性系に対しても、力学法則は同等である」ことにより、すべての慣性系は等価なるため特別な慣性系は存在しないということだ。
つまり、慣性系の親玉のような「絶対静止系」や「絶対空間」は成立しない。
光速度不変の原理は、マイケルソンとモーレーによって精密な実験により測定されていた。
また、絶対時間を捨てた特殊相対性理論では、エーテルの仮定なしに光速度不変の原理と抵触しない結論が得られる。
アインシュタインは特殊相対論を、
(1)特殊相対性原理
(2)光速度不変の原理
という2つの原理に基づいて構築した。
特殊相対性効果という次のような性質が導かれた。
(1)時間と空間とを独立に扱うことは出来ない。
(2)観測者に対して動いている物体の「長さ」は運動の方向に縮む。
(3)観測者に対して動いている時計の時間は遅れる。
(4)観測者に対して動いている物体の質量は大きくなる。
(5)エネルギーと質量は等価である。